不動産コンサルマスター研究報告

私、不動産コンサルティングマスターという資格を持っています。


資格の更新要件を満たすために、不動産コンサルティングに関する知識・技術に関する研究と称して、当社のサービスに関する内容をまとめてみました。


2,000字以上の記述が必要なので多少長いですが下記転記します。


===以下本文===


不動産コンサルティングに関連する知識・技術に関する研究


須田 幸生(登録番号(2)第25342号)


請負代金債権担保融資の活用について


1.研究にあたって


個人や法人が建物を建築する場合、建設会社との間で工事請負契約を締結し、これに従って建築された建物を、請負代金を支払うことにより引渡しを受けることとなる。


例えば、個人が自宅を建築する場合、その多くは住宅ローンを利用しているが、この住宅ローンは建物に担保権を設定して実行されることとなるため、実行されるのは建物の竣工後となる。


一方、業界の慣習では、請負契約時に請負代金の30%、建築中、例えば建物が上棟した時点で同30%、竣工し、建物を引き渡した時点で残りの40%の支払いを求められることが多いが、発注者の自己資金は限られているケースが多い。


ただし、そもそも民法の規定(抜粋)によると、『請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。第632条(請負)』『報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。第633条(報酬の支払時期)』とあり、上記の慣習は、建設会社の資金繰り上の必要性もあり例外的に(ただし業界においては一般的に)規定されているものに過ぎない。


ここで、民法の規定に立ち返るためにも、建設会社が建築期間中の事業資金について、融資を利用することにより、発注者の自己資金負担を軽減しながら建築が発注できるスキームについて、建設会社サイドから研究することとする。


2.想定する取引(図1参照)


3.研究の手順

(1)資金調達可能額の検討

(2)資金調達のための必要条件

(3)ソリューションの検討

(4)工事請負代金債権担保融資の仕組み


4−(1)資金調達可能額の検討


資金調達可能額 =『担保評価』+『信用評価』


企業が金融機関から資金を調達しようとした場合、その調達可能額は『担保評価』+『信用評価』で算定することができる。


想定のケースでの資金調達可能額を従来の評価基準に従い考えてみると、『担保評価』については、土地は個人の所有であり、かつ住宅ローン金融機関の担保として提供されているため、建設会社の担保としては評価できない。


また、『信用評価』のためには、会社の正確な財務資料と、事業計画の策定が必要となるが、多くの建設会社はこの様な資料が整備されておらず、信用評価は限定的である。


4−(2)資金調達のための必要条件


資金調達の必要条件 : 『担保提供』&『信用構築』


このような状況で資金を調達するためには『担保提供』と『信用構築』が必要となる。


まず、『担保提供』のために、保有する資産について、不動産以外であっても、担保として提供できるものが無いか検討してみる必要がある。具体的には売掛金や未収入金などの債権、棚卸資産や原材料などの動産、および機械や設備等の資産について、担保提供の可否や評価額を検討することとなる。想定のケースでは、発注者からの受注が担保評価できれば、資金調達の可能性が出てくる。


一方、『信用構築』のためには、財務管理体制を整備し、金融機関が評価できる財務力を蓄えることが必要となる。まずは月次試算表や資金繰り表を作成したうえで、工事ごと・月次・年次での予実管理を行うことにより評価可能な財務体制づくりが必要となる。そのうえで着実に収益を上げて財務力を蓄えていくこととなり、長期的な取り組みとなる。


4−(3)ソリューションの検討:ABLによる資金調達


ABLとは


経済産業省が、産業金融活性化を目的として普及促進を目指している『動産・債権等担保融資(Asset Based Lending)』のこと。
不動産や保証に過度に依存せず、企業の事業収益性に着目し、事業キャッシュフローを活用することで、企業の資金調達の多様化を図ることを目的としている。


ABLは、単なる貸し手の担保確保の手段ではなく、借り手である企業と貸し手である金融機関とが、担保とする資産の状況等を共有し、その評価を通して経営の実態を明らかにすることが本質である。


ABLの担保となる債権には、例えば売掛債権や請負代金債権、診療報酬などがあるが、それぞれ借り手である企業の経営状況や債権の相手先の内容によって、その評価が大きく変動する。


従って、ABLを活用して資金を調達するためには、前項(2)の資金調達の必要条件である『担保提供』と『信用構築』に同時に取り組まなければならない。


想定のケースでは、発注者からの受注(工事請負契約)に基づく債権(請負代金請求権)が担保として評価できるよう、請負契約の内容や工事の施工状況について貸し手である金融機関との間で情報共有し、この建築請負事業が生みだすキャッシュフローから金融機関とステークホルダーへの支払いを確保するストーリーを示すことが必要となる。


4−(4)工事請負代金債権担保融資の仕組み


〔図2〕融資スキーム概要


① 建設会社からABL金融機関に対し、工事請負契約に基づく工事請負代金債権譲渡(譲渡担保)し、この債権譲渡について債権譲渡登記もしくは発注者からの承諾を得ることにより対抗要件を具備する。(債権譲渡担保)


② 建設住宅性能評価や瑕疵担保保険といった法定の検査に基づいて工事の進捗を確認し、工事出来高を算定する。この工事出来高が債権担保評価の対象となり、工事の進捗に応じて評価額が増加すれば、その評価額相当の融資が可能となる。(出来高融資)


③ 実効性が確認された工事完成保証を付与することにより、確実な竣工引渡しと工事請負代金債権の保全を図る。(完成保証)


④ 事前に、住宅ローン取扱金融機関より施主の住宅ローンの事前承認が得られていることを確認し、当該融資金を代理受領することにより弁済を受ける。(代理受領)
(債権譲渡担保)


売掛債権や請負代金債権は、当事者間で譲渡禁止の同意がある場合を除き債権譲渡(譲渡担保)が可能だが、従来、借り手である企業は、その事実を支払者である取引先に知られることが取引信用面で悪影響を与えることを懸念し、債権譲渡に消極的だった。


しかし、平成17年に債権譲渡登記制度が大幅に改正され、この制度に従って登記した債権譲渡に関しては取引先に通知する必要が無くなり、借り手にとって債権譲渡担保の融資が利用しやすくなった。


 一方、建設会社によっては、ABL金融機関からの融資金を建築事業資金に充当することで、請負代金支払者である発注者から工事期間中に前受金を受領しないことをPRポイントの一つとして活用するという戦略から、発注者に対して事前に債権譲渡についての説明を行い、承諾を得ることも可能である。


5.研究内容の活用により期待されること


(1)受注拡大


工事期間中の建築事業資金を安定的に確保できる体制を構築することにより、資金不足による受注制限や工事期間の長期化が解消される。


また、工事期間中に発注者から前受金を受領する必要が無くなるため、発注者に対して請負代金の完成後一括払いをアピールすることで販売促進につながる。


さらに、プロジェクト管理の体制を構築することにより、現場での課題に対して速やかに対応することが可能となり、施工のクオリティが向上する。


(2)コスト管理


工事の出来高に応じた融資を受け、納入業者や外注先への支払に充当する体制を構築することで、未払金の清算や今後の支払いに関する取引先との協議が、実効性のある支払計画に基づくものとなる。


また、ABL評価のために、プロジェクト毎の収益が受注段階で確定できる体制を構築することで、コスト管理意識が向上し、未払金の清算が完了した段階においては、支払サイトの短縮を前提とした取引条件の交渉も可能となるものと思われる。


(3)財務管理体制の構築


ABL活用の前提となる財務管理体制を整備することで、資金繰りや工事案件毎の収支管理が可能となり、事業計画の策定が実現できる。


策定した事業計画の予実管理を行い、金融機関に対して継続的に実績を示していくことにより信頼が構築でき、着実に収益を上げて財務力を蓄えていくことで、新たな融資取引に結びつけていくことも可能となるものと思われる。


(以上)